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3.1.1. 構成レベル 症状その1:結論がない

論文において最も致命的なのは「結論がない」ことです。結論がなければ、どんなに完璧な英語で書かれていても、論文とは呼べません。結論のない論文は、ただの備忘録か、それ以下です。「何をいまさら」と思われるかもしれませんが、結論のない論文を書く人は意外に多いのです。チェックの仕方は簡単です。論文のAbstractやDiscussionの最後のほうを読んでください。そこに、"Our data demonstrate that …." だとか、"These results reveal that …."などのまとめの一文がなければ、その論文には結論がないと判断してよいでしょう。

本来、論文というものは、伝えたいメッセージ(つまり結論)があるからこそ手に筆を取り書くものなので、「結論のない論文」というのはある種、oxymoron(矛盾した表現)です。

なぜこのような不思議な現象が起こりえるのでしょうか。

可能性としては、書き手が、書く準備ができていないにもかかわらず、サイエンス以外の"世知辛い事情"から、書かざるを得ない状況に追い込まれていることが考えられます。例えば、卒業が迫っているとか、研究費申請を前にして業績を増やしたいとか、そういった事情です。あるいは、指導教官がちゃらんぽらんで、合理的な仮説や作戦もないまま、場当たり的な実験を学生やポスドクにやらせている場合もあるかもしれません。そのような場合、執筆経験の浅い人は、手元にあるデータを羅列しただけのdescriptiveな(記述的な)論文を書いてしまいがちです。例えば、新たに作った(あるいは発見した)変異体やトランスジェニック生物についてその表現型をとりあえず記載しただけの論文や、あるタンパク質の構造解析結果をダラダラと記述しただけの論文などがこのカテゴリーに含まれます。

この「結論がない症候群」に対する処方箋は、ずばり「伝えたいメッセージがなければ書かない」ことです。以上。

まあしかし、そんなことを言っては身もふたもありませんね。私も長年研究者をやっていますから、研究の世界にも不条理なことがあることは十分承知しています。伝えたいメッセージが特になくても書かなくてはならない時はあるんですよね。

比較して結論をひねり出す
そんな時の秘策は、「比較すること」です。自分の研究結果を何かと比較し、比較対象とのsimilarity(類似点)とdifference(相違点)をまとめることで、今まで見えていなかったものが見えてきます。「分ければ分かる」ということですね。例えば、変異体の表現型について記述する論文であれば、新たに報告する変異体と既知の変異体とを比較するのです。タンパク質の機能に関して記述する論文であれば、それと相同性の高いタンパク質と、あるいはそれとよく似た機能を持つタンパク質と比較してもよいでしょう。

比較する対象が見つかれば、まず紙1枚を手元に用意しましょう。そして、真ん中に線を引いて、右側にsimilarityを、左側にdifferenceを思いつく限り書き出してみましょう。このブレーンストーミングをやれば、自分の研究結果の中で何が一番新しいか(=最も伝えたいメッセージ)が見えてくるはずです。そして、それがそのまま論文の結論になります。ここで注意してもらいたいのは、できるだけ焦点を1つにしぼることです。「あれも言いたい、これも言いたい」と欲張ってしまうと元も子もありません。1つの論文につき、結論は1つにしましょう。そうでなければ読者を混乱させるだけです。

結論を1つに絞ることができれば、あとはここにたどりつけるように論文を組み立てていくだけです(論文構成については次の章で解説します)。

それでも結論が出なかったら
しかし、上記のようなブレーンストーミングをやっても結論が出てこない場合もあるかもしれません。「Differenceをまとめてみたけど、どれもパッとしないなー」「ていうか私の研究って意味あったの?」なんてぼやいてる人もいるかもしれません。そんな最悪の場合の裏技は、「自分の研究テーマは複雑だー!」と結論づけてしまうことです。あまりおすすめはしませんが、「複雑」というキーワードを使うとどんな場合でも論文を形だけはまとめることができます。構成としては以下のようになります。

1.比較対象とのsimilarity
2.比較対象とのdifference
3.似ている点もあれば違っている点もある
4.だから、自分の研究している現象・メカニズムは思っていたよりも複雑だ

このような流れです。ただし、「複雑だ」というのはかなり主観的で、本当の意味での結論というよりも"結論もどき"でしかありません。このようなあまり内容のない文を書くときは、文のスタイルや単語の選択までもが幼稚にならないように注意しましょう。以下の例を参考にしてみてください。キーワードには下線を引いておきました。

・Together, our data provide an additional dimension to plant antiviral defense strategy.
・Our results suggest that the XXX protein family plays diverse roles in plant environmental responses.
・These findings provide additional insight into the complex regulation of iron homeostasis.

こんな風に書くと、論文を形だけでもスマートにカッコよくまとめることができます。

〜まとめ〜
・結論とは「伝えたいメッセージ」
・結論を一つに絞る
・結論から論文を組み立てる
・結論をひねり出すために「比較」する

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