3.2.1. センテンスレベル 症状その1:読みにくい
まずは以下の英文を読んでみてください。
That a change of ideas and the force of human will have made the world what it is now, though men did not foresee the results, and that no spontaneous change in the facts obliged us thus to adapt our thought is perhaps particularly difficult for the Anglo-Saxon nations to see, just because in this development they have, fortunately for them, lagged behind most of the European peoples.
どうでしょう。1回読んだだけで意味が分かりましたか。この文は、ノーベル経済学賞受賞者のフリードヒ・ハイエクが書いたものです。彼の名著「The Road to Serfdom(隷属への道)」から引用しました。偉大な経済学者を批判するのも気が引けますが、非常に分かりにくい文ですよね。
なぜ分かりにくいのでしょうか。
まず、見て明らかですが、長いです。1文で68ワードもあります。こんなに長いと、日本人でなくてもネイティブだって混乱してしまいます。1文を読み終える頃には、文の始めのほうで言っていた内容を忘れてしまうかもしれません。当たり前のことですが、分かりやすい論文に仕上げるためには、1文をなるべく短く簡潔にする必要があります。目安としては、声に出して読んでみてストレスにならない程度の短さにすることです。音読中に息がもたないとか、何度も息継ぎしなければならない文というのは、黙読をするときにもストレスになります。音読して「読むのが辛いな」と感じたら、短い文に分割しましょう。上記の例文であれば、私なら以下のように3つの文に分割します。
・A change of ideas and the force of human will have made the world what it is now, though men did not foresee the results.
・Thus, no spontaneous change in the facts obliged us to adapt our thought.
・These points are perhaps particularly difficult for the Anglo-Saxon nations to see, just because in this development they have, fortunately for them, lagged behind most of the European peoples.
さらに、上記のハイエクの文が分かりにくいのにはもう1つ理由があります。それは主語と動詞をすぐに見つけることができないという点です。この例文は英文法で言うところのSVC型で、その主語は2つのthat節(2個目のand that節は1個目のthat節と同格)です。動詞はisで、補語はdifficultです。つまり、「that節の内容が、the Anglo-Saxon nationsにはdifficult to see」ということですね。かなり難解です。この文を解読するのにはよほどの忍耐力が必要ですね。忍耐力に欠ける私の場合、1つの文を頭から読み始めて、その動詞になかなかたどりつけないと非常にイライラします。そして動詞らしきものを見つけてもなんだか不安になってまた文頭から読み直すのです。もうイライラの極致です。
こんな風に読者をイライラさせないためには、主語となる部分をできるだけ短くして、主語と動詞をできるだけ近くに置いてやることが大事です。which節やthat節などの修飾節内における主語と動詞の関係についても同様です。また、名詞節としてのthat節は、その部分だけで長くなりがちなので、これを主語に使うのもできるだけ避けたほうがいいでしょう。もし主語部分が長くなりそうであれば、形式主語のItを使うのもアリです。これを使えば、動詞を先に出し、その直後に本当の主語をもってくることができ、主語と動詞のつながりが明確になります。例えば、以下の2文を比較してください。
・How pathogens ensure sufficient amounts of the F-box effectors in the host cell despite the intrinsically unstable nature of F-box proteins, however, remains unclear.
・However, it remains unclear how pathogens secure sufficient amounts of the F-box effectors in the host cell despite the intrinsically unstable nature of F-box proteins.
後者のほうが読みやすいと思いませんか。実はこれ、何を隠そう私が実際に投稿論文の中で書いた文章です。オリジナルは後者の文だったのですが、最終的に投稿先の雑誌の編集者が勝手に前者の文に変えてしまいました。おそらく、その雑誌の編集方針のようなものがあって、Itの形式主語を使ってはいけないことになっていたのでしょう。もちろん英語として何も間違っていないですし、むしろ高尚な香りがしなくもないですが、前者の場合だと、主語はHow節全体なので長く、動詞も文の終わりになってやっと明らかにされます。やっぱり読みにくいですよね(ちなみに、前者の場合でも、Howeverを頭に持ってくると、後の流れが予測できるため、もう少し読みやすくなります)。
主語と動詞の距離が十分に近いかを検討する際も、声に出して文を読むことが役に立ちます。読みながら主語と動詞のつながりを即座に特定することができればその文は問題ありません。この確認の際、自分の文章を少し寝かせてから読み直すとより効果的です。書いてから何日か寝かせて再読すれば、当初気づかなかった違和感を感じることもあります。
〜まとめ〜
・1文を短く簡潔にする
・長くなりそうであれば数文に分割する
・主語と動詞をすぐに特定できる文を作る
・声に出して読み、読みやすさをチェックする