4.3. 「書く」ことを意識して「読む」
分かりやすくてカッコいい英語論文を書けるようになるためには、当然ながら、論文を書く訓練をたくさんしなければなりません。しかし、それだけではなく、論文をたくさん読むことも、論文を書く上で同じぐらい重要です。言わずもがな、論文を読んだことのない人が論文を書けるはずがありません。逆に、日頃から論文をよく読んでいる人は、論文を書くのも上手な傾向があります。私も大学院生の頃は、自分の専門分野に限らず、幅広い分野の論文を毎日のように読んでいました。当時は、1週間で平均5本くらいは読んでいたと思います。そのときに覚えた英語表現や論理構成は、今でも自分のライティングに役立っています。論文は、専門知識を得るためだけの読み物ではなく、書く上でのヒントを探すのにも格好のソースなのです。
しかし、だからと言って、やみくもに読めばいいというものではありません。大事なのは、論文を読みながらも、頭の隅っこでは、書くことを意識することなのです。「お、この表現は使えるぞ」とか「ああ、こういう順番で説明すると分かりやすくなるのか」などと、ライティングに活かせそうな事柄を頭のどこかに留めながら論文を読んでください。
この際、決して自分で「単語・表現集」などを作ろうと思ってはいけません。私もExcelでそのようなリストを作ろうとしたことはありましたが、長続きしませんでした。しかも、それを作ったところで、上手く活用できませんでした。リストを作ることで自己満足してしまい、肝心の英語表現が自分の頭に残らないのですね。
ですから、「単語・表現集」を作成するよりも、役に立ちそうな表現や構成に出くわしたら、できるだけその場で記憶するようにしてください。論文読みは一発真剣勝負。そのときに記憶できなかったらもう二度とチャンスはやってこないと思って、気合を入れて読むとよいでしょう。もちろん人間の記憶はそんなに当てにならないものですが、それでも、自分が論文を書いているときには、ふと何かを思い出したりするものです。「そういえば、ここで使えそうなカッコいい言い回しがあったよな」などと気づくことができたらしめたものです。あとは、その表現が出てきた論文を必死で探し出し、該当の場所を見つけるだけです。一見無駄に時間を使っているようにも思えますが、このプロセスを繰り返すことで、その表現を自分のものにすることができるのです。
また一方で、下手な文章を反面教師にすることも大事です。論文を何本も読めば、意味の分からないヘナチョコ論文にも出会うはずです。そんなときも、「時間の無駄になった」などと思わずに、なぜその論文が分かりにくいのか、あるいは自分ならこの下手な文章をどう改善できるか、そんなことを考える習慣をつけてください。他人の論文を建設的に批判することも、自分のライティング力向上につながります。