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4.8. 意外と知らない、コンマの使い方

さて、いきなり問題です。下の2文における微妙な意味の違いは何でしょうか。

My son, Takeshi, is genius.
My son Takeshi is genius.

日本語に訳すとどちらの場合も「私の息子タケシは天才だ」となりますが、"My son"の後ろにコンマがあるかないかでニュアンスは大きく違ってきます。このコンマは同格を表すコンマです。このコンマがある前者の場合、「息子=タケシ」の関係が常に成り立ち、「息子」と言えば「タケシ」以外に他の誰でもないという意味になります。すなわち、お父さんにとってタケシ君は一人息子である可能性が高いわけです。一方で、後者の場合、「タケシは息子である」ということが宣言されているだけで、タケシ以外に他にも息子がいる可能性が示唆されます。

このようなコンマの使い分けは科学論文を書く上でも重要です。科学論文では遺伝子名やタンパク質名など大量の固有名詞が登場します。それら固有名詞の後にコンマを打って、その具体的な説明を続けるというやり方をよくしますが、その際コンマの使い方には十分気をつける必要があります。例えば以下の例文を見てください。

HER1, the human epidermal growth factor receptor (EGFR), regulates cell proliferation.

先ほどの例と同じように、ここでも同格のコンマが使われています。ヒトにおけるEGFRとはすなわちHER1であり、それ以外の何物でもない、ということです。これが仮に、ヒトのEGFRが複数あるとしたら、このコンマの使い方は間違っていることになります。さらに次の例文も見てみましょう。

TIR1, the F-box protein, is essential for plant development.

冠詞のところでも説明しましたが、theの持つ意味はallあるいはonlyです。ですから、"the F-box protein"と書くと、唯一のF-boxタンパク質、あるいは全てのF-boxタンパク質を指すことになります。そして、同格のコンマを間に入れることで、「TIR1=唯一の(全ての)F-boxタンパク質」という関係が成立してしまいます。「F-boxタンパク質と言えばTIR1に他ならない」というわけですね。しかし、ご存知のようにF-boxタンパク質にはTIR1のみならず数百種類のものがあります。したがって、このコンマの使い方は間違いです。この文を訂正するとしたら以下のようになるでしょう。

TIR1, an F-box protein, is essential for plant development.

このように書けば、「TIR1はたくさんあるF-boxタンパク質のうちのひとつ(an protein)にすぎない」という意味になり、正確な文になります。

たかがコンマですが、使い方を間違うとえらい目に会うことがありますから十分注意しましょう。

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